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Jan 17 2012

youkoseki:

ネオニートphaさんに続く、インタビュー第二弾を公開します。今回は友人でゲーム研究者の井上明人さんに、ゲーミフィケーションについてお話を伺いました。

ゲーミフィケーションは、レベルアップ、アイテム収集、仮想通貨など、ゲームの仕組みをゲーム以外の分野にも応用するという概念で、昨年大きな話題となりました。私自身ゲーマーなので、ゲームの面白さを他にも活用するというアイデアはとても魅力的に感じます。

しかし、実際にゲーミフィケーションが私たちの生活にどのような変化をもたらすか、具体的なところはあまり耳にすることがなく、概念先行のぼやっとした流行という印象も否めません。

お話を伺った井上さんは国際大学GLOCOM研究員としてゲームの研究を行っており、多くの評論やテレビなどでもご活躍のほか、節電ゲーム「#denkimeter」のデザイナーでもあります。

そして何より、井上さんはまもなくNHK出版から「ゲーミフィケーション <ゲーム>がビジネスを変える」を刊行される予定。ゲーミフィケーションの具体的なところを伺うにはぴったりです。それではさっそくどうぞ。


(井上さん @ 六本木)


<ゲーミフィケーションのそもそも話>

−流行語が次々生まれるのは業界の常ですが、特にゲーミフィケーションは急に流行った気がします。なぜ今ゲーミフィケーションという概念が出てきたのでしょう。

ライフログの技術水準が上がったこと、それからスマートフォンが普及したことが下地としてあります。

ゲームを作るには、勝敗や得点を判定する仕組みが必要です。その仕組みを考えるとき、ライフログはとても相性が良かった。今、スマートフォンには万歩計やGPS、振動センサのような機能がはじめから組み込まれていて、ライフログデータを取得するのに他の機器を買う必要がありません。

スマートフォン以外にも、JawboneのUPという腕輪型のデバイスでは、睡眠パターンを計測して点数をつけてくれます。眠りに点数がつくというのは新しい時代ですね。オムロンの体組成計は体重やら体脂肪率やらのデータを記録して、クラウド上で管理できます。昔からあるような計測技術もありますが、クラウドと結びついたり、小型化したり、利便性が高まったというのがでかい。


Jawbone UP

日常の行動を評価する仕組みがライフログとしてあって、そのインタフェースとしてスマートフォンがあることで、日常をゲームにする強力な力が揃い、ゲームを作りやすくなったと言えるでしょう。

スマートフォン以外にも、ウェブのアクセスデータをゲーム化するBadgevilleのようなサービスがあります。どのページを訪問したかといった、普通はGoogle Analyticsで調べるようなデータを使うわけで、これもライフログを使ったゲームのひとつです。

−ライフログのデータがあるからゲームを作れるようになったと。それにしてもゲーミフィケーションは、誰がいつ流行らせたのでしょう。

キーワードとして流行らせたのは、米国のマーケッターでしょう。中でもゲイブ・ジッチャーマンは本も出していて、流行の立役者と言えます。

Gabe Zichermann
(ゲイブ・ジッチャーマン @ Oscon 2011

言葉としては2010年の8月くらいから海外のビジネス誌で言われるようになって、ゲーミフィケーションサミットが開催された2011年の1月くらいから、Google Trendsではぐっと話題になっています。そして2011年中頃にガートナーが取り上げ、バズワードとして確定した感じです。

−ハイプサイクルですね。

ビッグデータ、Internet of Thingsと並んで、新しいトレンドとして取り上げられました。


(ガートナー:2011年のハイプサイクル

ただ、ゲームをマジックワードとして盛り上げようという試みは周期的に流行っていて、たとえばゲームを日常のためのツールにしようという「ゲーミングシュミレーション」は三十年前からある概念です。

−じゃあ、今回ゲーミフィケーションが話題になったのはなぜですか。

ゲーミフィケーションが実ったのは、インパクトのある事例が揃ったからでしょう。Foursquareや、Nike+、Badgevilleなど、実際に流行っているものが幾つか出てきて、ただの言葉ではなく「なるほど、これね」と具体的なサービスと結びつけられるようになりました。

−ではゲーミフィケーションの流行はなにかが新しいというより、ただ事例が整ったということでしょうか。すこしまえには「シリアスゲーム」というのもありましたが。

新しい部分もあります。リアルかバーチャルで考えると、シリアスゲームはあくまでバーチャルが主です。ゲーミフィケーションはリアルがベースで、日常にゲームが付加される、拡張現実に近い感じ。このバーチャルからリアルへの転換があったのはでかいです。

また、リアルがベースとなったことで、コンピューターゲームと比較されずに済むというのもあります。シリアスゲームのようにバーチャルだと、マリオやドラクエと直接比較されてしまう。しかしマリオやドラクエより面白い教育ゲームがそう作れるかというと、それはまあ難しい、無理ですよね。相手は任天堂ですから。負け戦です。

−なるほど。

たとえばFoursuqareに対して、ドラクエよりつまんないという声はあるかもしれませんが、それは当たり前です。しかし、特別おもしろくもない日常の行動がFoursquareによって面白くなったら、これはいい結果です。ランニングも、ただ走るよりは、Nike+があったほうが相対的に面白い。

基準がマリオやドラクエにある人にとっては、ゲーミフィケーションのなにが面白いのかと思うかもしれませんが、そこで勝負しているわけではないというのが重要です


<ゲーミフィケーションの実践>

−ゲーミフィケーションの理屈は分かるのですが、私のような普通のサラリーマンにとって、Foursqaureでバッジがもらえる以外に、なにか変わることがあるんでしょうか。このまえオライリーの「ゲームストーミング」という、ブレインストーミングをゲーム風に実践するための本を買ったのですが、実際のところ「じゃあ今日の会議はゲームにしよう」と言える立場の人はそういないように思います。

それは話を分けて考えたほうが良いですね。まず「ゲームストーミング」が題材とするようなアジャイル開発は、そもそもかなりゲーミフィケーションに近い分野としてあります。アジャイルは知り合いのゲーム会社などでも多く採用されているようですし、ゲーミフィケーションと言わずに、同じようなことがうまく展開された例でしょう。

ただ、そうしたアジャイルの話と、ここ一年のゲーミフィケーションブームとはあまり関係がないですね。

−では、昨今のゲーミフィケーションブームのほうは、どう広がっていくのでしょう。

僕は、さまざまなライフログのデータをAPIなどで繋いで、ゲームに利用できる時代が来ると考えています。そうなると、個人の日常生活をRPGツクールのようにゲームとして仕立てられるようになる。十年以内にはできると予想しています。

−自分のRPGですか。自分で遊ぶのでしょうか。

RPGに限らず、他のゲームかもしれません。自分で遊ぶことも、他の人が遊ぶことも考えられます。

いま、可能性として一番近いのは、Facebookなどで社内評価システムとして使われているRipplesです。Ripplesではプロジェクトの目標を達成したり、システム上で他の人へ有益なフィードバックを返したりすると、バッジが貰えるというような仕組みを備えています。そして、その設定を、プロジェクトマネージャーが自分で変えられるようになってるんですね。プロジェクトのゲーミフィケーションと言えます。

自分たちで、自分たち向けのゲームを作れるというのが、すごく重要なところです。会社のえらい人とか、気の合わない上司がデザインしたゲームは嫌じゃないですか。関わっているプロジェクトごとにゲームデザインができるようになる。たとえば学校ではクラスごとに自分たちの目標をゲームにするとか、そういうポテンシャルもあると思います。

僕自身、日常をゲーム化して、それにはまるということがよくあります。

−たとえばなんですか?

今年でいうと節電ですね。#denkimeterのおかげで、もうゲームとしてだいぶ習熟して、いま月間42kWです。

−42kWって、どれくらいすごいのかよく分からないですが……。

月の電気代が千円とか。 

−本当ですか?! 電気つけてますか?

LEDで。

−あー、なるほど。それはすごい。

だいぶ節電には詳しくなりました。

あと、今年の後半にはまったのは食べログですね。あれはもともと半分ゲームとしてデザインされていて、半分はされていない感じです。 

−そうなんですか。

食べログは、レビューをずっと書いていると、スコアに対する影響力が上がるんですね。最初はレビューを書いても0.01ポイントくらいしかスコアに影響がないのですが、100件以上書くと0.3ポイントくらい影響を与えられるようになります。

−100件書いたんですか。

150件くらい書いています。

−なるほど……。食べログの影響力を高めるゲーム。

ほかの例だと、受験勉強とか、就活、それから選挙活動をゲーム感覚にするというのもあるでしょうね。勉強の仕方は合う合わないがあるので、そういうのを設定して、支援するツールがどんどん出てこれば面白いのかなと。

−ルールが用意されるのではなくて、自分でカスタマイズできるというのが肝というわけですね。

今回、本を書いていて気付いたのは、ゲーミフィケーションのビジネス面で大きいのは、ゲームの設計というより、ゲーム支援プラットフォームだなと。やっぱりプラットフォームビジネスです。Foursquareは店舗向けゲーム支援プラットフォームですし、Budgevilleもウェブサイト向けゲーム支援プラットフォーム、Ripplesも組織向けゲーム支援プラットフォームですね。そしてプラットフォームビジネスだとすると、早いうちに参入して一番手になるのが重要という話になってきます。ゲーミフィケーションはうさんくさいなどと言われているうちに、状況は決するかもしれません。


<ゲーミフィケーションを面白くするには>

−社内評価にゲーミフィケーションが使えるというさっきの話ですけど、それはつまり成果主義ですよね。仕事の目標をひとつ満たせば何点で、合計点で給料ランクはこれ、というのとなにが違うんでしょう。

ゲームとはなにかを考える必要があります。ゲームを形式面から考えると、ルールがあって、ゴールがあって、インタラクションがあって……と定義できますよね。そう考えると成果主義は確かにゲームです。ただ、そういう定義があれば確かに行動はしやすくなるのですけど、だからと言って万人がハマる楽しいゲームになるわけではないです。

一方、認知面からゲームを考えると、自分が今いる環境に貢献したい、自分自身を繰り返し向上させたい、というような定義になります。これは、上司から一方的に言われた成果主義では、そう成立しない話です。つまり形式面でゲーミフィケーションだからといって、認知面でゲーミフィケーションかというのは、まったく別です。この認知面をどう調整するかが重要です。

そもそも「これをやりなさい」と動機付けられるのは、どちらかというと下手なゲームですね。触っているうちに「お、なんか面白くなってきた」というのが良くできたゲームです。マリオやドラクエがまさにそうです。

−しかし、そうすると認知面で良いゲーミフィケーションを作るのはすごく難しいのでは。

そうなんです。ただ、ゲーム作りのハードルは下がったので、ノウハウを積み重ねていくしかないですね。データが蓄積できる分野、たとえばトレーニングなんかは、ゲーミフィケーションの効果が大きいでしょう。評価尺度のない分野、たとえば新規事業開発には、ちょっと向いていないでしょうね。新規事業開発のなかでもブレインストーミングの段階だけ、というのであれば可能ですが。

−当然、分野によって向き不向きがあると。

コンピューターゲームの歴史を考えても、笑いとか、アートとか、難しい分野というのがいくつかあります。ギャグをゲームにするのは難しいですし、カラオケの採点システムもしょぼいです。

でも、ゲームもハードルを乗り越えてきました。たとえば議論をゲームにするのは難しいと思いますが、「逆転裁判」は議論の中から推理という評価可能な部分だけを抜き出してゲームにした、素晴らしい作品です。

「わがままファッション ガールズモード」もそうです。ファッションの良し悪しというのはゲームにできない素材ですが、「こういう人にはこういうコーディネートだ」というマッチングを素材にすることで、ゲームになった。


「わがままファッション ガールズモード」任天堂、2008年)

−そういうゲームデザインの歴史から学べることがあると。

はい。天才的なゲーミフィケーション作家がいるとしたら「ここを指標として評価すればゲームになるな」と気付く人でしょうね。ゲーミフィケーション・デザイナーも出て来ていいと思います。

ゲーミフィケーションでなんでもできます、というのはまあうさんくさい話です。ただライフログのおかげで、ゲームを作るコストが下がったのも事実です。ゲームは複合メディアなので、いろいろ調整して、繰り返し作っては直すというプロセスが必要になるため、これから半年や一年でなにかものすごいものが出てくるということはないでしょう。

インターネットで言えばちょうど1995年ぐらいの感じで、当時は「民主主義が変わる!」とか騒がれていて、いろいろな夢や野望がありましたが、いまようやくその実際的なところが伝わるようになってきました。ゲーミフィケーションも同じで、5年10年経ったとき、「iPhoneが流行った2010年ごろが契機だったね」と言う日が来ると思っています。


井上明人さん: